
白石一文『ほかならぬ人へ』を読んだ。
直木賞受賞作という事に加えて、内容が面白そうだったので(「愛するべき真の相手はどこにいるのだろう?」というキャッチコピーに何となく惹かれた)、購入して読んでみた。
『ほかならぬ人へ』『かけがえのない人へ』の2編が収録されているのだが、以下、感想や気付いた点を述べたいと思う。
まず、両作とも、一部を除いてはリアルなまでに現実世界が投影されている。アーティスト名、社名、地名等、ほとんどが実在と同じ名称で書かれており、生々しい感じが出ている。
また、文章が非常に読み易い。難解な文章がほとんどなかった。時には少し下手に見える程だった(スミマセン)。これは意外と読ませるのに重要だと思う。
さらにキャラクターが「容姿は優れない」と描写されていながらも、何処か魅力的である。『ほかならぬ人へ』の東海さん、『かけがえのない人へ』の黒木、共に容姿が優れた感じではないのだが、人間的魅力が作品から感じられる。セリフなんかも上手いという事なのだろうか。
『ほかならぬ人へ』はブスである筈の上司・東海さんの魅力が読ませる。そして、ラストは何とも言えず、物悲しい気持ちになった。
『かけがえのない人へ』も黒木の男性的魅力が溢れている。SEXの描写もなかなか。ラストも悪くないが、「携帯電話があるじゃないか」と突っ込みを入れたくなった。
なかなかの良作で読んで良かったです。