
風太郎先生の『十三角関係』を読み終えた。風太郎先生のオリジナル名探偵・荊木歓喜が活躍(活躍と言う言い方は適切じゃないかもしれないが)する連作集で、推理小説など久々に読むのでなかなか新鮮だった。まあ元々、風太郎先生は江戸川乱歩の弟子のような存在で、推理作家だったんだけどね。
では各作品の書評を。
『チンプン館の殺人』
歓喜先生の住処、チンプン館で殺人事件が起きる。犯人はすぐに読めたが、その発想は面白い。
『抱擁殺人』
古き時代の悲しい運命を背負わされた男が繰りなす復讐劇。聖女が犯されたか否かわからないのがまたうまい。
『西条家の通り魔』
これも何となく犯人はわかったが、書き方が上手い。歓喜先生は気付いていながら人間を見誤っていたという描き方も、キャラクターを生かしている。
『女狩』
同じく何となく犯人はわかったが、世の中にいかにもありそうな殺人理由で、現実味がある。面白い題材だと思う。
『お女郎村』
自らを「合理主義者」と嘯く青年と歓喜先生のやり取りが秀逸。青年の台詞が行き過ぎていて面白い。
『怪盗七面相』
怪盗七面相の犯行理由が馬鹿げていて面白い。ストーリー自体も殺人がない為、明るい感じで一風変わっている。
『落日殺人事件』
これも犯人は何となくわかったが、犯行理由の開示部分や、息子の嫁の処女検査をしろという父親の発想などが目を引く。単純に殺人事件のみを読む話ではないのだ、風太郎作品は。
『帰去来殺人事件』
これはトリックも秀逸。歓喜先生の過去も描かれ、彼の人間性もよく出ている。ラスト、最初に出てきた何気ない会話の内容がもう一度出てくるが、「なるほど」と唸らされる。こういうのが風太郎先生のうまさだ。
『十三角関係』
複雑に絡み合った人間関係から導き出される信じ難い犯人。何となく予想は着いたが、これを昭和30年頃に書いていたとは脱帽だ。また、凄く人間心理を突いた言葉や台詞が自然に散りばめられていて、感心させられる。ネタの大盤振る舞いといった感じだ。